"> 解明Polka クリスマス延期のお知らせ 忍者ブログ
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某歌ロイドにはまった人がちまちま書いているようです。ブログ名で好きCPがわかる罠

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結局延期のお知らせになりました。今は25日深夜だから26日って表示されててもきっとせふせふだと信じています、管理人です。
えーと、先日ぼやいた禁忌の恋~トナカイ×サンタ~です。カイメイです。現代風異世界なんちゃって物語です。気付いたら長くて、うはwwwちょwwwと自分でも突っ込みました。そりゃあ、終わらんわ…orz
あ、ほのぼのではないです!まさかの(管理人にしては)鬱展開です。幸せほのぼのラブラブなカップルは、ここにはいません。
ここで切っても問題ないかな、と思いますが。実は続きがあったりします……。

何でもアリご都合主義万歳な展開になりかけてるので、もう何でも許せるよしょうがないな見てやるよ、ってかたは続きからどうぞー!


***

深い深い山奥に、1年中雪に閉ざされた、小さな小さな集落がありました。
その集落は、地図にも載っていないので、地元の人間でもその存在を知りません。
そこで暮らす人々は、一つの大きな一族と、それに仕える九つの家系で構成されています。
彼らは、ただの人ではありません。
一族の人々は、世界ではサンタクロースと呼ばれる存在でした。
そして九つの家系の人々は、そのサンタクロースにつき従う、トナカイと呼ばれる特殊な種族でした。
サンタクロース達は、クリスマスイブの夜、世界中の子供たちに、プレゼントを配って回るのが仕事です。
彼らは、そのための特別な力をもっています。
子供たちの幸せを祈る思いを元に、その子の為だけのプレゼントを、作り出すことができるのです。
トナカイ達は、サンタクロースの乗る空飛ぶソリを引くのが仕事です。
人の姿と同時に獣の姿をもつ彼らは、日が沈んでから昇るまでの間、空を自由に駆け回ることができるのです。
サンタクロースもトナカイも、人と同じ姿をしていますが、人とは全く違う存在でした。
そして彼ら同士もまた、似ているようでいて全く別の種族でした。
彼らは仕事に就くときに、伴侶とはまた違う、生涯のパートナーを決めています。
パートナーとなった者同士は、一生協力し合いながら、お互いの力を高めあい、子供たちの願いを叶えるために尽くすのです。
ですから、パートナー選びは、互いの相性を見て、慎重に行われます。
気の合わないもの同士が組んでは、うまく仕事ができないからです。
それともうひとつ、決して恋に落ちたもの同士ではいけません。
種族を越えて愛し合うことは、その集落では最大の禁忌とされていました。

これは、そんな集落に生まれ育って、愛し合ってしまったパートナーたちのお話です。


クリスマスの前の時期、丁度冬の始まりくらいから、サンタクロースとトナカイは、それぞれの担当の街に通うようになります。
目的は、二つ。
その街の子供たちの数と住所を確認することと、その子供たちの願うプレゼントを調べることです。
東の果ての街を担当する、栗色の髪に紅茶色の瞳をもつ娘と、海のような深青の髪と瞳をもつ青年も、街へ降りてきていました。
一年程街へは下りていなかった二人のことも、街は快く迎え入れてくれたようでした。
その街は決して大きな町ではありませんでしたが、進んだ技術をもっていて、街は夜だというのに昼のように明るく照らされていました。
クリスマスというイベントが近いせいか、電気の生む光の海を渡りゆく人々の波は皆、どこか浮足立っています。
そんな波の中をたゆたうように、娘と青年は、あてもなく歩き回っていました。
きらびやかに飾り立てられたショーウィンドウや、あちこちに飾られたモミの木たちを、娘は興味津々に、飽きもせず眺めては通り過ぎてゆきます。
初めて訪れたわけでもないのに、毎年毎年新鮮なものを見るように、はしゃぎ歩く娘の数歩後ろを、青年は静かに歩いていきます。
その瞳は、娘のそれとは正反対に、ただ娘の姿だけを従順に追い、愛しむように見つめています。
実はその娘の方が、青年よりも二つばかり年上なのですが、とてもそうは見えません。
娘は青年の視線に気付くことは無く、けれど時折振り返っては、弾む声で青年を呼びます。
「かいと、来て! すっごくきれい!」
娘の纏う真っ赤なワンピースの裾が、まるで、娘の気持ちの高揚をそのまま表すかのように、ふわりと軽やかに舞いました。
カイトと呼ばれた青年は、その声にそっと目を細めて頬笑みを返すと、心もち歩を早め、娘の隣に立ちます。
ライトブルーのマフラーが、それに合わせて人波の合間に踊ります。
「今度はどうしたの、めーこさん」
カイトはそう声をかけながら、娘、メイコの隣に立ちます。
そして、メイコからの答えを聞く前に、目前に広がる光景に、そっと息をのみました。
「ね、きれいでしょう。いつ見てもきれいだから、不思議よね」
メイコがその光景から目を逸らさないままそう囁くのに、カイトも前を向いたまま「そうだね」と答えます。
二人が肩を並べて立つそこは、街の高台の展望広場でした。
今まで通りぬけてきた商店街の、きらびやかな明かりとは違う、生活の温もりの感じられる明かりを灯し、住宅街が二人の眼下に続きます。
決して派手ではなく、けれど素朴な美しさを秘めた、光の海が広がっていました。
展望広場から住宅街へは、等間隔おきに造られた、幅広くゆったりとしたなだらかな階段が繋ぎます。
ちょっとした交流の場も兼ねているそこには、ささやかなイルミネーションを施された植え込みや、洒落た形の木製のベンチがそこここにあります。
それらを照らすのが、商店街の明かりと、これまた洒落た形をして、橙の光を放つ街頭でした。
そして、街を見下ろす柵のあちこちに、仲睦まじそうな恋人たちの姿がありました。
幸せそうに寄り添い合う彼らの姿を見て、メイコはふと、隣に立つカイトをちらりと盗み見ました。
決して寄り添いあってはいない二人でしたが、それでも彼らと同じように見えるのかと、それが気になったのです。
けれどメイコは、すぐにぶんぶんっと激しく頭を振って、その考えを打ち消しました。
仮に他人の眼にそう映っても、メイコとカイトの関係も実際にそうなるわけではないのです。
第一、パートナー同士であるメイコとカイトは、そういう想いをもつことを禁じられていましたし、メイコ自身、そうであれと思ったことはありません。
それでも、そんなことを考えてしまったこと自体に動揺するメイコに、まるでタイミングを読んだかのように、カイトが声をかけました。
「どうかしたの、めーこさん」
「な、なんでもないわ、気にしないで」
メイコは明らかにしどろもどろになって、不審なことこの上ありませんでしたが、カイトは暫しその顔を覗き込んだ後、「そっか」とだけ言って目を逸らしました。
それ以上の追求がなかったことに、そっと胸をなでおろしながら、今度は、メイコがカイトに問いかけます。
「かいとこそどうしたの、難しい顔しちゃって」
「あ、わかる?」
カイトが首をかしげながら苦笑するのに、メイコは「あなたの事なら、ちょっと見ればすぐわかるわよ」とでも返してやろうと思いましたが、何故か声にはできませんでした。
それを言葉にして、カイトに伝えることは、なぜだかとても恥ずかしいことのように感じられたからです。
結局メイコが頷きだけをかえすと、カイトはもう一度目を住宅街に向けて、独り言を紡ぐように唇を動かしました。
「なんだか、夜空の星の海を、そのまま落っことしたみたいだなって」
そのままカイトの視線が空へと辿るのを追って、メイコの視線も空に辿り着きます。
街の明かりが強すぎるせいか、空は晴れ渡り雲ひとつないというのに、そこに広がって見えるのは闇だけで、星を見ることはできませんでした。
二人や、他の大勢のサンタクロースとトナカイが暮らす集落からは、これでもかという程の、満天の星を見ることができます。
そのことが、カイトの心に引っかかったのでした。
複雑そうな表情で、星のない夜空を見上げるカイトに、メイコは何も言わず、そっともたれかかりました。
それは、その辺りで恋人達がごく自然に行っている動作であり、メイコもそれは自覚していて、その事実はチクリとメイコの胸を刺しました。
けれどその痛みは、驚いたような顔でカイトがメイコを振り返ったことで、ふっとどこかへ消えてしまいました。
メイコは、僅かに顔を仰向けて、カイトと視線を合せました。
「そんな顔しなくたって、わたしはずっとかいとの傍にいるわ」
その言葉に、カイトはゆっくりと目を見開きます。メイコは、ふふっ、と悪戯っぽく笑って見せました。
カイトはメイコに気付かれないように、そっとそっと息をついた後、困ったような笑顔を返しました。
メイコは笑いかけたまま、カイトの言葉をじっと待ちます。
「……まったく、めーこさんには敵わないや」と、そうカイトが言うのを待っているのです。それは、度々メイコとカイトが交わす、『いつも通りのやり取り』でした。
けれど、カイトの唇から低く零れた言葉は、メイコの予想とは全く違うものでした。
「……本当に?」
「へ?」
ぽかんと口を開け、聞き返したメイコの顔は、傍から見れば間抜け顔と称されても文句は言えないほどに、気の抜けた顔でした。
真剣な光を瞳に宿したカイトはしかし、笑うこともせずに、じっとメイコを見つめます。
いつも柔和でふわふわした笑みを湛えて、優しい瞳で世界を、メイコを見つめるカイトは、その瞬間にはどこにもいませんでした。
その瞳に見つめられることに耐え切れなくなって、メイコは視線を住宅街に逸らしながら答えます。頬がかあっと熱くなったような気がしました。
「あ、当たり前でしょう、わたしはかいとのパートナーだもの」
カイトからの視線を感じながら、振り返れないメイコは、ひたすらに眼下の星の海を見つめ、頬の熱を冷ましながら、カイトの言葉を待ちました。
どのくらい時間が経ったのか知れません。
実際にはとても短い時間かもしれなくて、けれどメイコにはとてつもなく長く感じられる時間が経って、カイトが息をつく音が、メイコの耳朶を打ちました。
「そうだよね、ごめん、変なこと聞いた」
声の調子に『いつものカイト』を感じとって、メイコは再びカイトを見上げました。
優しく目を細め、唇に柔らかな弧を描いて、カイトはメイコの顔を覗き込んでいました。
「そろそろ帰ろうか。商店街も今日で一通り回れちゃったし、明日からは住宅街だね」
「そうね」
笑みを交わし合って、二人は歩きだすためにそっと、寄せ合っていた身体を離しました。
二人の姿はやがて、光の海の中へ消えてゆきました。


***


様付けで呼ばないで、敬語もいらない。友達として過ごしましょう。
メイコがカイトに言い渡した、最初で最後の命令がそれでした。
二人が正式なパートナーになった、その日の夜のことだったはずなので、それはもう十年近く前のこと、メイコが十四、カイトが十二の時のことでした。
同年代の二人は幼い頃に、ひょんなきっかけで出会ってからというもの、仔犬たちがじゃれあうように仲良く育ちました。
なので二人がパートナーになることは、珍しいほどあっさり決まりました。
パートナーで無かった時のメイコには、カイトに命令し、従わせる権利はありませんでした。
けれどトナカイの家系に生まれたカイトにとって、サンタクロースの一族であるメイコは、敬うべきと叩きこまれてきた存在だったので、片時も敬語を外すことはありませんでした。
メイコには、それが二人の間をどうしようもなく隔ててしまう、鬱陶しいものに感じられて仕方なかったのです。
だからメイコは、ただそれだけをカイトに告げました。
言われたカイトの方は、最初ばかりは戸惑ったものの、すぐに慣れて、やがて二人は仲が良すぎるほど仲の良い友人になりました。
そんな過去の自分に、思わず親指を立てて見せたくなる日が来るとは、メイコは夢にも思っていませんでした。
けれど、その日はやってきたのです。
メイコの性格ではどうしても、想いを寄せる人から様付けで呼ばれ、余所余所しい敬語を使われるなど、耐えることができそうにないのです。
その想いの存在を、メイコがきちんと自覚したのは、その年初めて街に下りてから、数日が経ったある日のことでした。
街に降りるたび、恋人たちの姿が気になって仕方ありません。
恋人たちの姿を気にしては、他人の眼に映る自分を、性格にはメイコとカイトの関係性を、考えずにはいられないのです。
そうしてカイトの隣に立ちながら、不意にやきもきしたり、何でもないことでも酷く幸せになったりと、自分の感情に振り回される日々を重ね、メイコは唐突に答えを見つけました。
私は、カイトの事が好きなのだ、と。
その言葉を心の中でとなえた瞬間、メイコの頬は一瞬にして、熟れたリンゴのような紅に染まりました。
隣を歩くカイトは当然、すぐにそれに気付き、どうしたのかとメイコの顔を覗き込みました。
これがまた、メイコにとっては逆効果で、落ち着くどころか、心臓が破裂しそうなほどに胸の内を跳ねまわり始めます。
その後も挙動不審がちになるメイコは、始終カイトに心配され、不思議そうにされながら、やっとのことでその日の分の巡回を終えたのでした。
家につくと、リビングにカイトを置き去りにしたまま、メイコは真っ直ぐ自室へ向かいました。
本当なら、長い距離をソリを引いて走ったカイトをいたわるべきところでしたが、メイコはとてもそれができる状態ではありません。
ぼすっとベッドに飛び乗ると、枕をぎゅうと抱きしめて、メイコは扉の向こうにいる、青い青年を想いました。
先程は心の内でしか唱えられなかった言葉を、今度は声にして、音としてそっと空気中に放ちます。
「わたしは、かいとのことが、すき」
メイコ自身でも驚くほどに、小さく掠れ、震えた声でした。
そして、その言葉は、恐ろしいほど甘い響きを孕んで、メイコの耳に返ってきました。
熱くなる頬も、跳ねまわる心臓も、全てが腑に落ちました。
メイコは、自分が禁忌の恋をしてしまったことに、気付いたのです。


***


隠し通そう、と、メイコが決心するまでに、そう時間はかかりませんでした。
メイコが生まれてから、禁忌を破って恋に落ちたパートナーはいませんでしたから、禁忌を破ったものの処遇は、メイコは良く知りません。
もしも記憶が正しければ、幽閉か追放っだった、そのくらいの知識でした。
それでもメイコは、自分のせいでカイトが罰を受けることは望みません。
想い合うことは、村の掟で禁忌と定められています。
けれど、一方的に想っているだけならば、それが誰にもばれなければ、誰も罪に問われることはないのです。
ならば、メイコが隠し通す分には何も問題はない、と、メイコはそう結論付けました。

けれど、事態はそううまく運んではくれませんでした。
街中で恋人達を見るたびに、得も言われぬ焦燥感に襲われながら。
幸せそうな親子連れを見るたびに、腹の中でむかむかと何かが広がる感覚を味わいながら。
カイトの隣にいるだけで、落ち着かなくなる心を必死に押さえつけて、メイコはクリスマスまでの日々を過ごしていました。
そして、クリスマスまで一週間に迫り、担当区域の分のプレゼントの準備を始めた日のことでした。
サンタクロースは、子供たちの幸せを祈る思いを、プレゼントの形に具現化します。
幸せを祈る、というと大したことのようにも取れるけれど、なんてことはない、ただ子供たちの笑顔を思い浮かべるだけでもいいのです。
メイコがプレゼントを作り出し、それをカイトが名簿と照らし合わせ、そして2人でラッピング。
正式にサンタクロースの任についてから、何度も繰り返してきた作業です。
メイコとカイトの担当する街は比較的小さいので、2人でも十分に行えてしまう準備でした。
今年に限っては、メイコの胸の内には何とも言えない不安がありましたが、それでも大丈夫だろうと、そう、メイコは思っていたのです。
けれど、パラパラと名簿を繰るカイトの傍らで、最初のプレゼントを用意しようとした時に、メイコはその異変に気付くことになりました。
急に動きを止め、プレゼントを作る姿勢にも入ろうとしないメイコに、カイトもすぐに異変に気付きました。
どこか虚ろに曇った瞳で、煌々と燃え盛る暖炉の火を見つめたまま、メイコは宙に差し出していた掌を、ゆっくりと身体の脇に落としました。
「めーこさん? どうかしたの」
言葉を発することすらしないメイコに、カイトは机を回り込んで、メイコの正面に立って顔を覗き込みました。
ゆっくりとメイコの視線が上がり、カイトの瞳に向けられました。
つう、と一筋の雫が、柔らかな紅の頬を伝い落ちました。
「めーこさん?」
戸惑うでもなく、焦るでもなく、カイトはメイコを呼びました。
その呼びかけに応えるように、メイコは虚ろな表情のまま、ふるふると弱々しく頭を振ります。
潤み切った瞳から、また新しく雫が落ちて、床に一点の染みを作りました。
小刻みに震える唇から、掠れ切った小さな音が零れ落ちます。
「かいと……わたし、わたし、できない」
「落ち着いて、めーこさん、どうしたの」
宥めるようにカイトがメイコの頭を撫でれば、それがきっかけであるかのように、メイコはくしゃりと顔を歪め、わっとカイトにしがみつきました。
「ごめんなさいっ、わたし、こんなつもりじゃなかったのに……!」
そこから、メイコはさらに言葉を紡ごうとしたけれど、その言葉は嗚咽に飲み込まれ、きちんとした言葉の形で口から出ることはできませんでした。
「……大丈夫だよ、めーこさん。大丈夫」
カイトは胸元にしがみつき、顔を埋めたまま涙を零すメイコをそっと抱きしめると、幼子をあやすように節をつけて、穏やかな声で「大丈夫」と繰り返します。
それに合わせるように、華奢な体を包み込み、背に回った手で軽く叩いて、ひたすらメイコが落ち着けるように努めました。
しばらくして、ようやく涙が途切れてくると、メイコはカイトに縋りついていた身体を、自ら離しました。
そして、すっかり枯れてしまった声で、途切れ途切れに、自らの身に起こったことを話します。
「わたし、プレゼント作れなく……なっちゃった、みたい」
「作れなく?」
「そう。わたしたちは、子供たちの幸せを祈る気持ちを、プレゼントに変えるでしょう?」
「うん」
メイコが、泣き腫らした目を逸らしたままで話しても、カイトは真っ直ぐにメイコの顔を覗き込んでいました。
そのことが、メイコにとっては逆に辛くて仕方ありません。
その優しい眼差しが、いつ侮蔑の眼差しになる事か。
恐怖の中で、メイコは声を絞り出します。
「わたし、子供たちの幸せを祈るなんて、できないわ」
ひゅっと、カイトが息をのんだ気配が、メイコまで伝わってきました。
叱責の言葉が来るだろうと、メイコは思わず身構えます。
けれど、メイコの耳朶を打ったのは、相変わらず優しい声でした。
「どうして、って、聞いていい?」
メイコが思わずばっと顔をあげると、柔らかい光を宿した深青の瞳と目が合いました。
乾きかけた涙の後の上を、新しい一筋が濡らして去って行きました。
「こ、こんなこと思うの、変だってわかってるんだけど」
「うん」
優しさに手を引いてもらうように、メイコの本音は口を突いて出ます。
「羨ましくて、妬ましくて仕方ないの……っ」
大切な人と、大好きな人と、想い合って、微笑みあう。
街ですれ違った人々にとって、それはごく当たり前のことだったのでしょう。
けれど、メイコには、それが許されることはありませんでした。
そしていずれ、メイコの手には入らない幸福を手に入れるだろう子供たち。
たったそれだけのことでした。
たったそれだけのことでしたが、メイコにはその子たちの幸せまで祈れる、心の余裕がなかったのです。
堰を切ってあふれ出す言葉達を、カイトは黙って、全て受け止めてくれていました。
だから、メイコの口から、その言葉は零れ落ちてしまったのです。
ぎゅっと目を瞑ると、たまっていた涙が一気に零れ落ちて、パタパタと床を濡らしました。
「わたしはこんなにかいとのことが好きなのに……っ」
一気に言葉を吐き出してから、メイコははっと目を見開きました。
とんでもないことを口にしてしまったと、自覚したときにはすでに遅く、メイコは咄嗟に口元を押さえ、恐るおそるカイトを見上げます。
未だ優しい眼差しでメイコを見つめていたカイトは、哀しそうに微笑んでいました。
「……こう言うのは、今のめーこさんには酷かもしれないけれど」
穏やかな口調に、メイコは、断られるだろうと身構えました。
一方で、断られてしまえば、逆にその方がいいかもしれないとも思いました。
それですっぱり諦められれば、誰が罰せられることもなし、メイコもまた仕事ができるようになって、万事解決するように思われたのです。
けれど、カイトの口から温かい声音で紡がれたのは、ぞっとするほど冷たい言葉でした。
「めーこさんのその気持ちは、多分、勘違いなんだよ」
「……え?」
思わず表情をなくすメイコに、カイトは哀しそうな微笑みのままで言葉を継ぎます。
「めーこさんは僕以外の異性と、深く関わってきたことがなかったでしょう」
何も言えないメイコの両肩に手をおいて、カイトは諭して聞かせるように言います。
「単なる幼馴染がパートナーになって、たまたまずっと一緒にいたのが僕だったから、好きだと思い込んでるだけなんだよ」
「違うわ、わたし本当にかいとの事がっ」
メイコが反論しようとすると、肩に置かれていた手に、ぐっと力が込められました。
「いつかきっと、本当の恋を知るときが来るから」
「かいと……」
「だからね、めいこ」
メイコの視界は、あっという間に涙で滲んでいきました。
滲む前に見たカイトの顔は、残酷で優しい笑顔でした。
「今は、そんな勘違いのために、未来を失っちゃいけないよ」
涙はもう、止まるところを知りません。

***

泣き疲れたメイコが、そのまま眠ってしまうまで。
カイトはずっと、メイコの傍に寄り添って、その背をさすってやっていました。
メイコが眠ってしまったのを確認すると、そっとメイコの部屋へ運びます。
幼いころからずっと一緒だった2人ですし、今更互いの部屋に入るのに、変に遠慮することはありませんでした。
けれどメイコの気持ちを知ってしまった今、カイトは僅かな入り辛さを感じました。
一瞬のためらいの後、それを踏みつぶすように、カイトはメイコの部屋へ足を踏み入れます。
華奢で小さな体を寝具に横たえると、カイトはそのまま、その脇に腰をおろしました。
閉ざされた瞼はすっかり腫れてしまっていて、睫毛に引っかかった雫がきらきらとその縁を飾っています。
顔にかかった髪を、そっと払ってやりながら、カイトは囁くように言葉を紡ぎます。
「ごめんね、めいこさん、僕はとても卑怯で臆病だから」

あなたのためになら死んでもいい。
けれど、あなたに忘れられるのは、それだけは、いやなんだ。

言葉はさざ波のように、部屋の空気を僅かに震わせて、そのまま消えて行きました。
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