"> 解明Polka ようやく続き 忍者ブログ
2024.05│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

某歌ロイドにはまった人がちまちま書いているようです。ブログ名で好きCPがわかる罠

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

なんとか体調復活しました。管理人です。
という訳で一週間以上あけての「ウタにココロが宿るなら」もといウタココでございます。
1を未読の方はこちらから、注意もそちらの記事に書いてあります。
あれ、1人恋愛フラグ立ててるやつが……w

本編で糖分が足りないので幕開けで補給。つくづくカイトに甘いな、このブログはw

変なところで切ってしまいましたが、取り敢えずここで一休み。
次はカイト視点のはずです。あと、2,3話……少し長くなりましたが予定通りいきそうです。

では続きから本編です。




朝の洗面所、弟妹達が揃って早くからの仕事だったおかげでついさっきまで戦場だったところに、寝起きらしく寝ぐせのついたままのカイトが現れた。

「おはよう、めーちゃん」

「んー?……あ、おはようカイト」

「どうしたの?寝不足?」

「んーん。ただ、懐かしい夢見たから、いろいろ思い出してたのよ」

「懐かしい……?」

「ほら、あんたがうちに来たばっかりのころの」

「ああ、あの頃……できれば、忘れて欲しいんだけどなあ」

困ったように頬を掻いたカイトは、今でもやっぱり普段から笑顔を絶やさない。
けれどこの笑顔はあのころとは違うのだと、それは多分カイト自身よりメイコのほうがよく知っているだろう。

"違和感"の全くない笑顔に、やっぱり出会ってよかったとメイコが夢の中の自分に確認して軽く笑うと、カイトは益々困ったような顔になって、眉間にしわが寄っている。
仕方がないので、メイコはそっとカイトに抱きついて、背中に手をまわした。カイトは未だ不思議そうにしているくせに、ちゃっかり手を回し返してくるのがメイコにはとても愛おしい。

「出会えてよかったわ、カイト」

「僕もだよ、めーちゃん」

自分の傍らに居てくれる温もりに安堵しながら、メイコは今朝がたの夢の続きをひっそりと思い返した。


◇ ◇ ◇


通信部屋を出たメイコは、カイトを我が家に案内するその道のりで、見回り中のバスターさんとすれ違った。

マスターのパソコンのバスターさんは、なかなかどうして戦士とは到底思えないようなのんびりとした性格だ。見回りと言えばまるで散歩をしているようで、ウィルスチェックなども傍から見ればどこかの風景を眺めているのと大差ない。
それでも戦えば強いし、マスターがずぼらなせいでセキュリティホールだらけのこのパソコンで、警戒しながらものんびり暮らせるのはバスターさんのおかげだ。
のんびり屋のバスターさんを最初はみんな侮るが、一度彼が戦う姿を見たら誰もが彼がこのパソコンの守護者であり、侮ってはいけない人であることに納得するだろう。

メイコが挨拶をすると、バスターさんは朗らかに笑って返す。

「こんにちは、バスターさん!」

「やあ、メイコちゃん……そっちの君は、噂のカイト君だね?」

バスターさんに声を掛けられて、カイトは驚きをあらわにした。

「そうですけど……どうしてご存じなんですか?」

戸惑ったようにそう問い返されると、バスターさんは微笑ましいものを見るような温かい目で2人を見つめた。

「いやね、メイコちゃんが散々触れ回ってたんだよ。今度、一緒に歌う人がインストールされるんだってね」

「ば、バスターさん!」

メイコは慌てて止めに入るが、カイトが興味深そうな顔をして聞いているものだから、バスターさんは非常に楽しそうに話しを続ける。

「あの時のメイコちゃんは本当に嬉しそうだったんだよ。だからぼくもね、君が来るのをこっそり楽しみにしていたんだ」

「そうだったんですか」

その時の事を思い出しながら話しているのだろう、バスターさんの目はどこか遠くを見ているようで、その情景が実際に目に映っているかのようだった。

「それが実際に来てみるとどうさね、えらく格好の良い子が来たじゃないか。しかも良い性格をしていると見た」

「それは……言いすぎですよ」

「そんなこたぁないね」

カイトの言葉をやんわりと否定しひとり納得するように何度か頷いたその目は、不意にメイコを捕らえて実に愉快そうな光を宿した。その視線に何となく嫌な予感がしたメイコが口をはさむ前に、バスターさんは言葉を継いだ。

「ぼくは、思うんだよね。これはメイコちゃん、カイト君に惚れちゃうんじゃないかなってね」

『バスターさんっ!?』

途端に頬に朱をのせたメイコと、虚を突かれて目を見開いたカイトの声が重なった。2人とも声を上げたはいいものの何となく気まずい気持ちになってしまい、上手く言葉を繋げられない。
その2人を見て何故か満足げなバスターさんは、見回りの続きがあるからね、と言うと踵を返したが、それからすぐに顔だけで振り返って置き土産と言わんばかりに言葉を残して行った。

「いいねえ、若い子たちは。まあ、これからいろいろとよろしくね」

遠ざかっていく背中を呆然とメイコが見詰めていると、その隣でカイトが深く息を吐いた。

「バスターさん……侮れない人だ」

どうやら彼の中では、バスターさんは普段とは違う意味で侮れない人と認識されたらしい。



その後家につくまで、更に何人ものソフトウェア達とすれ違い、その都度メイコはカイトを紹介し、カイトは柔和な笑みを浮かべ礼儀正しく挨拶した。メイコは兎に角自分と同じ家で暮らし、歌う仲間が来たことが嬉しくて仕方なく、懇切丁寧に彼を紹介したし、カイトはカイトで言葉遣いは完璧、人当たりもよしの態度を終始崩さず(恐らく彼は素でこういう性格をしているのだろう)、丁寧に挨拶し話し掛けられれば過不足なく答えてみせた。

そんなカイトの第一印象は悪いはずがなく、彼は温かく、そして非常に穏便に迎えられることとなった。
中でも、マスターのパソコンの中では特に古株で、気難しい頑固者として名高いダイアログさんがすんなりと馴染んだことには、メイコを始めその場に居合わせた面々は驚きを露わにせざるをえなかった。ぽかんとしていたのは当人達だけだ。

そういう訳だから、2人が家につく頃には、カイトはすっかりこのパソコンの住人として迎えられていて、それから勝手について来たソフトウェア達によってなし崩し的に歓迎会が執り行われ、最終的にはXPさんまでわざわざ足を運んで来るほどの大騒ぎになっていた。
もちろん、再びニコニコしながらあらわれたバスターさんによってまたしても2人が散々に振り回される羽目になったのは言うまでもない。もっともその時にはカイトの方は大分対応に慣れた様子で会話をこなしたので、結果的にメイコ1人が色々と大変な思いをすることになったようなものだったが。



そうしてカイトがパソコンに迎えられてから数日は、とても平穏な内に過ぎて行った。何せ2人には、歌う歌も何も無かったのだ。

マスターは、カイトが来るまではずっと最初はメイコのコーラスから、と言い続けていたから、本来彼はもっと早く楽譜を渡される筈だった。
しかし、一体何がどうなったのやら、突然やっぱりソロで歌って貰おうと言い出したかと思うと、妙に勢い込んで新曲を作り始めた。そしてVOCALOID2人を置き去りにしたまま、ああでもないこうでもないと、パソコンを付けている時はいつも奇声じみた苦悶の声をあげながらDTMのソフトウェア達と奮闘しているのだ。

お陰でカイトにもメイコにもする事が全くなかったが、マスターは時々我に返ったように2人を呼び出しては、カイトが来るまでにメイコと作り上げた曲を披露してみせたので、まるっきり暇、という訳でもなかった。

そしてあいている時間は、2人でパソコン内を回って過ごした。
マスターのパソコンは本人も認めるほど無駄に容量が大きいので、ソフトウェアのフォルダ同士の距離は無駄に長い。ソフトウェア達がそれぞれどこにいるか、特にXPさんとバスターさんの居場所は重要なのでそれを優先しながらだが、きちんと一か所ずつ教えて行くのはとても手間なのだ。

しかしその長い道も、2人で喋りながらならば驚くほど短く感じるものなのだと、メイコはその道すがら思い知った。1人ではない、ということが如何に素晴らしい事であるかを早くも歌う前から実感して、メイコは只々カイトが来てくれたことに感謝するばかりだ。

だからメイコは、彼に歌を聞いてもらう時には、有りっ丈の気持ちを込めると決めた。
ありがとう、という言葉の存在は勿論知っているし、とっくに本人にも伝えてあった。けれどカイトは何を言われてもいつも穏やかに微笑むばかりで、いつも笑ってくれているのはメイコにとってもマスターにとっても嬉しいことではあるのだが、本当の反応がとてもわかりにくいのだ。

あんまりにもカイトが笑顔を絶やさないものだから、メイコは時折カイトは笑顔の下に色々な思いを隠しているんじゃないかとすら、真面目に疑ってしまう。カイトの受け答えや仕草を見ていれば、多分そんなことはない、と自分でその思いを否定することはできる。
しかし一度生まれた不安はなかなか消えてはくれず、だからメイコは、自分がカイトに歌を聴かせる時間に頼るのだ。

ほんのわずか、メイコの声を聞いている時にだけ微かに変化するカイトの表情は、きっと見間違いではないのだと信じることで、メイコは何とか自分の気持ちをカイトに伝えたいと思うのだ。



状況が変わったのは、カイトが来てから丁度一週間が経った日の事だった。
最早毎日の日課になりかけているカイトの為のメイコのコンサートが終わった、そのすぐ後の事。曲が終わって数日で恒例になった笑顔で拍手を送ったカイトに、これまた恒例になった満足げな表情で画面の向こうのマスターが頷いた後、カイトの前に一枚の紙が現れた。
反射的に受け取ったカイトは珍しく笑顔を引っ込め心底驚いたように目を丸くしていたので、メイコはうすうすその内容に見当を付けながらも、好奇心にかられてカイトの後ろからその紙を覗きこんだ。

案の定、それはマスターの作ったカイトの為の新曲だった。

楽譜を見つめたままじっとして何も言わないカイトをよそにメイコがそっとマスターを見上げると、彼もメイコと目を合わせてにんまりと口角を上げた。彼がしてやったり、と思った時にしてみせる表情だ。
それにメイコも満面の笑みで頷き返すと、マスターは嬉しそうに目元を細めた後、未だ何も言わないカイトに声をかけた。

「カイト。お前に歌ってもらうために作った曲だ。待たせてすまなかったな」

マスターの声に反応して、ゆっくりとカイトは顔を上げた。
後ろ側に居たメイコにはその表情を窺うことはできなかったが、その時のメイコは特に気にしなかった。

──結果を知ってからならわかる、この時のカイトは多分、間近で見なければわからないほど僅かに、けれど見ているほうが泣きたくなるほど凄惨な笑顔を浮かべていただろう。

「今日からたくさん歌ってもらうからな」

「…………」

カイトはすぐには返事をせずもう一度楽譜に視線を落とすと今度はすぐに顔を上げて、すう、とゆっくり息を吸った。

そして、いつもと変わらない穏やかな声音で、いつもと変わらない口調で、言った。

「……随分と拙い曲ですね」

マスターの表情が凍ったのを視界にとらえながら、メイコは一瞬カイトが何を言ったのか理解できなかった。

「僕は、歌いませんよ」

穏やかで冷静で、優しい拒絶だった。



それからもカイトは相変わらず愛想良くて、けれどマスターの曲だけは絶対に受け取らなかった。
いや、マスターの曲だけではなく、もともと持っていたでもソングのファイルさえ、カイトは歌おうとはしなかった。

マスターは楽譜を突き返されても受け取らなかったから、カイトはいつも楽譜を持って自分の部屋へ帰っていく。
けれど出てくるときに何か持っていたことは一度もない。

カイトの態度は楽譜を受け取るのを拒む時以外はいっさいそれまでの生活と変わらなかった。だから他のソフト達は、カイトが楽譜を拒み続けマスターに逆らい続けている話を聞いても、なかなか実感がわかないのだと首をかしげるばかりだ。
それでも日を追うごとに不信感は増すらしく、いつしかパソコン内の空気は、表面は穏やかながらどこかぎくしゃくしたものになって言った。

カイトが楽譜を断るときに、いつもいつも拙いと言ったせいか、マスターはアンインストールもせずに週一のペースで曲を作っては、拙い、と突き返されている。
マスターの引き出しは多いらしく、曲のジャンルは童謡風からポップス、ロック風、民族調まで幅広かったが、どれもカイトは一瞥しただけでかぶりを振った。

時々マスターはカイトの曲と同時進行でメイコにも短いながらもちゃんとした曲をくれたから、恐らく歌うためだけに居たのならば、メイコは決して不満ではなかっただろう。
しかし生憎とメイコはマスターの事を強く尊敬していたし、言いたいことを我慢するような性格でもなかった。


そういうわけで日を追うごとに頻度の上がる小競り合い、もとい相手にせずに流すカイトに一方的にメイコが文句を言うという状況が続いて1ヶ月と半、遂にメイコの堪忍袋の緒が切れた。


ウタにココロが宿るなら -うたえない、うたわない-
PR
←No.39No.38No.37No.36No.35No.34No.33No.32No.31No.30No.29
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
メールフォーム