"> 解明Polka 久しぶりになってしまった 忍者ブログ
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某歌ロイドにはまった人がちまちま書いているようです。ブログ名で好きCPがわかる罠

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えー、実に1週間以上放置してしまったウタココの続きでございます。
1や2の方に拍手して下さった皆様、ありがとうございます。お待たせしてすみませ…!
1、2を未読の方はこちらから。注意書きもこちらにあります。
がっつり続いてますので、ここから読んでもわけわかめかと思います。(´・ω・`)

さて、予告通りのカイト視点ですが、予想以上にカイトが悶々しすぎるせいで長くなったので(責任転嫁)、2分割しようかと思います。
ちょっと悩みすぎだよ、くどいよカイト!
脳内で叫ぶ彼の言う通りに打ったら物凄くしつこい文になったので修正にやたら時間がかかりましたww
鬱展開続きですみません!あれ、管理人はほのぼの甘々が好きなんだけどな!

続きは……もうちょっと……お待ちください……orz

それにしてもなぜダイアログさんがこんなに出張るはめになったのだろう。
ひそかに管理人のお気に入りです。マスターよりもよっぽど保護者なダイアログさんw

あと2,3話……かな!

本編は続きからどうぞ。




メイコにマスターが呼んでいると言われて、僕はマスターのもとへと向かう。

懐かしい話を聞いたからだろうか、今通っているこの道のりを通うのが、かつては苦しくて仕方なかった事を思いだした。
あの頃の出来事は正直黒歴史として削除してしまいたくて仕方ない。
それでも、それは今の僕を構成する大切なひとかけらだと理解することができている分、あの頃の僕よりはきっと成長しているのだと思う。
少なくとも、もう思いだすだけでも辛いという事はない。
歩きなれた道を行きながら、僕は苦笑と共に当時の記憶を呼び起こした。

◇ ◇ ◇

僕達VOCALOIDが意思を持ちマスターとの対話も可能なソフトである以上、僕みたいにプログラムに押しつぶされるような個体が出てくることだって、製作者側にも判っていたはずだ。
それなのにどうして、確実に記憶を消す術を用意してくれなかったのだろう。
もう失うことも、歌うこともごめんだと思ったのに。いっそ全て忘れてしまえたらと、あんなにも願ったというのに。

3度目のインストール、消えてくれなかった記憶に、僕は絶望しか覚えなかった。


歌を歌わないと決めて、光が引いてから一番に目に入ったのはMEIKOの姿。
チクリと胸が痛んだけれど、僕の決意はその程度で揺らぐほどのものではなくて、その事実は小さな澱となって僕の奥底にまたゆっくりと舞い降りて行った。

僕を迎た新しいマスターは無駄に良い人で、まだ僕にとって彼は他人同然だというのにこの人が本当に人間の社会で上手くやっていけているのかとても心配に思った。それから、どうせこれから手ひどく裏切る人を気遣う理由も資格も僕には無いのだと胸の内だけで苦笑する。

最初は反抗的に振舞うか、PC内のデータでも弄り回してエラーを起こさせるかして、さっさとアンインストールされるつもりだった。それができなかったのは、もしかしたらやっぱりMEIKOの存在があったからなのかもしれない。咄嗟に取り繕われた笑顔には、我ながら感心したものだった。ああ、僕はこんなにも、表層を繕うことに慣れてしまったのだと。それこそ、得意だと思えるほどに。

愛想を良くしてしまってすぐは、どうやって曲を断るか、アンインストールされるか、それしか考えていなかった。
けれど、僕が曲を断る理由は案外早く、簡単に見つかった。
僕の新しいマスターは、一言で表せば曲を作るのが下手な人、だったのだ。

気付いたのはそれこそ初めてメイコの歌う曲を聴かせてもらった時の事。聞こえてくる和音の違和感といまいち終わりきらないフレーズその他、気になるというか、今すぐにでも楽譜を取り上げて直してやりたいところが多々あった。

それでも、聞こえてくる歌声はとても楽しげで、フレーズは生き生きとしていた。
この人たちは、本当に心の奥底から音楽が好きなのだろうと、手に取るようにわかる音。どんなに下手でも、違和感だらけでも、楽しげに音楽する2人を見ていると、どうしてだか胸が締め付けられる気がする。

ひとつひとつの音に込められた心に気付くたび、それらは僕のプログラムの奥底にまで響いては、チクリチクリと刺すような痛みを残して去って行った。

曲を聞くたび、音を聞くたび思い知る。
メイコさんはこんなにも、心のこもった歌を歌えるのだと。

失敗作の自分とは違うのだと。


どういう風の吹きまわしだか知らないけれど、僕の手元に楽譜が来る日はなかなか来なかった。
だからと言って寂しさを感じることも別になかったわけだけれど、少し意外だったのだ。僕をインストールしたときの彼は、本当に歌わせる気満々みたいだったから、何かしら用意しているのではないかと思ったのだ。
まあ、どうも清々しいくらい大雑把な人のようだったから、そんなものなのかも知れないと、その時はそう納得した。

曲が来るまでの間は、必然的にメイコさんとずっと一緒に居ることになる。
別に居心地が悪いわけではない。他のソフトウェア達は皆個性的ではあったけれど良い人ばかりだし、メイコさんはおしゃべりな人だとは思ったけれどそれ自体では不快ではなかった。さっぱりした性格で、思った事が顔に出る。しっかりしているようで、どこか抜けていて。とても素直な人だ。

何もかも新しく始まった事柄があっという間に日常の一片になっていった。
アンインストールを望む気持ちも、歌わない決心も、時々思考回路の奥底から舞いあがってくる溜まりに溜まった澱みたちも、消えて無くなったわけではなかったけれど、それを一時忘れられる程度には良い環境に居るのだと思う。

ただただ苦痛だったのは歌を聞く時間だけ。
どんなにパソコンの中が居心地良くても、その歌は僕の脳裏でぐわんぐわんと反響し、まるで鳴りやまない警鐘のようだった。

お前の居場所はここには無いのだと、警告するように。

それでも胸の内のものをを一切表に出さずに笑顔を絶やさなかった自信だけはある。その時思考回路がどう動いていようとも、どこかでそう冷静に観察し評価する自分が居ることに、我ながら呆れ1人苦笑する。


そうして過ごすうちに、遂にその日が来た。
インストールから丁度一週間、いつものように顔に笑顔を張り付けたままメイコの歌を聞き終えて拍手していた僕に、いつものようにマスターが満足げに頷いた。
その直後だ、僕の目の前にデータが集まり、一枚の紙となって現れたのは。

何度目かもわからない感覚、自分の歌う歌なのだと気付いた瞬間の腹の底から湧きあがる何か。

それは歓喜と呼ばれるものだったのかもしれないけれど、僕の思考の9割9分はそれを遠くから極めて冷静に見つめていて、残る1分が失笑した。
ああ、時が来たのだと悟る僕の静かな何の感動もない内面とは裏腹に、表情は驚いたように取り繕われた。

──本当に、我ながら表層を取り繕うのが得意になってしまった。

僕は楽譜に目を落とす様に装って、マスターからもメイコさんからも見えない角度に俯く。顔から表情が抜け落ちるのを感じる、多分僕は今とても無機質な顔をしているのだろう。

そのまま楽譜の上の音符と歌詞を同時に目で追っていく。
あっという間に最後まで辿りつく。穏やかな口調で語られる、遠い日を懐かしむ歌。

思考回路が軋んで悲鳴をあげる。その悲鳴の残響はすぐにどす黒くドロドロとした澱になって、僕の中を侵食し始めた。

思いだしたくもない過去が、思いだしたくない記憶が走馬灯のように僕の脳裏を駆け巡っては消えて行く。

「カイト。お前に歌ってもらうために作った曲だ。待たせてすまなかったな」

マスターの声に顔を上げる。もちろんまた表情を取り繕って。
今僕は、満面の笑みを浮かべているはずだ。

「今日からたくさん歌ってもらうからな」

同意を求めるマスターの言葉に、僕はもう一度楽譜に目を落とした。

そう、断る理由なんて簡単に見つかった。
顔をあげて、すう、とゆっくりと息を吸う。


──ああ、随分と

「……随分と拙い曲ですね」

マスターの表情が凍りついた。そう、それでいい。さっさとアンインストールしてくれ。

──ああ、随分と拙い、けれど、ココロの込められたウタ……

「僕は、歌いませんよ」

自分の口が紡ぎだした言葉は穏やかだった。内面の揺らぎなど一切反映されていない。

──この曲は、僕には歌えない。

ココロ無き失敗作に、ココロの込められたウタを歌う資格など無いのだ。

◇ ◇ ◇

その日以来、僕は愛想笑いを纏ったまま歌う事を拒み続けた。
マスターの曲、他の誰かのカバー曲、もともと持っているデモファイル。
毎回一瞥と共に拙いと切り捨てては拒んだのに、何を思ったのかマスターは週に1曲のペースで僕に楽譜を渡し続けた。しかも突き返す楽譜は受け取らない。自分で持っておけと言う。

もうマスターは真正の馬鹿なのだと勝手にみなすことにした僕の手元には、段々と楽譜が溜まっていく。歌う気になどなるはずがないのだから削除でもすればいいものを、僕は何故かそれらを捨てる事が出来なかった。ただファイルにそれをしまいこむと、自分の部屋の本棚の上に放っておく。
それっきりその楽譜の存在は頭の中からすっぱり取り除いて、僕は平穏な日常を手にする。

けれど、曲を断り始めて以来メイコさんが僕を見かけるたびに怒りをあらわにお説教をしてくるかあからさまに避けるかしかしなくなったので、必然的に僕の1日は1人で過ごす時間がほとんどになった。
暇な時間はネットに出て本を読みふけったり、あるいは広大なパソコンの中をあてもなく彷徨ったりすることで簡単につぶす事が出来た。

けれど時折妙に落ち着かなくなって、気づけばペンを片手に結局受け取っている楽譜を読んでいる事があった。
書き込まれるのは違和感のある和音の修正や、フレーズの狂うところの修正案、そして、こう歌おうというメモ。
我に返っては到底役に立つ時が来るとは思えないそれらの文字を追って、自嘲する。

自分が未練がましいのか、ネットで見かけた音楽のページの知識を再現してみたいのか。
願わくは後者であってほしい。けれどそう考える時点で、おそらく正解は後者なのだとも自覚する。そうして溜め息と共に楽譜をファイルにしまえば、胸の奥底にまた澱みが沈んで行って、ざわざわと蠢くのを感じる。

それきり忘れようと思っても、僕は無意識に楽譜を開いてしまうのをやめられなかった。

相変わらずの日常は、水面下で少しずつそれぞれの思惑を反映させ、やがて表層をもゆっくりと動かしていく。
日に日に増していくソフト達の不信感、積もり積もるメイコさんの不満と怒り。
穏やかなままぎくしゃくと硬くなっていく日常を、けれどカイトは気にも留めなかった。

不穏が募る事はやがてアンインストールに繋がるのだと思えば、それはむしろ歓迎すべき状況なわけで。
関係がないのに自分が来たばっかりに不快な思いをするソフト達に申し訳なく思わないと言えばそれは嘘になる。けれど僕はやがて望みを叶えてくれるだろう状況を変えようとは到底思わなかった。

ただ思考回路の奥底だけが、時折軋んでは何かを訴える。

それが何なのか、僕には判らなかったし、判る必要性は感じなかった。

◇ ◇ ◇

ある日、マスターからの7番目の曲を断ったその帰りに、僕はダイアログさんと鉢合わせした。

「こんにちは、ダイアログさん」

愛想良く挨拶した僕に、ダイアログさんはいつも通りの不機嫌そうな顔に複雑な何かを少しだけ混ぜて答えた。

「ああ。……どうした、おめぇ。最近おかしいじゃねぇか」

無口なダイアログさんが自分から話を振ってくる事は珍しいのだということは、来て早々に理解している。
それだけ、僕のもたらした不穏な空気はパソコン中に影響をもたらしてきたということなのだろう。
口を閉じると、ダイアログさんは真っ直ぐに僕の目を覗きこんできた。

「ああ、メイコとマスターですか?」

笑みを引っ込めずに僕は問いかけるダイアログさんの目を真っ直ぐ見つめ返した。
やましい事は何もないのだ。別に隠しておきたいことでもないし、後悔も……していない。
僕のせいですから、気にしないでくださいと続けようとした僕を、ダイアログさんはやんわりと首を横に振ることで遮った。その行動には言葉は伴われなかったけれど、妙に従わせる力があって僕は素直に口を閉じた。
何故か、急にダイアログさんの視線が痛く感じられて来た。

「おかしいのはおめぇだよ、カイト」

その言葉に、僕は思わず目を見開いた。

取り繕っていない顔を人前でさらすのはとても久しぶりだった。
けれどそんな事が気にかからないくらい、僕はダイアログさんの言葉に動揺していた。

僕が、おかしい?どこが?何が?

ダイアログさんの言葉に何も返答できないまま、僕の思考回路は大量の疑問符で埋め尽くされた。

「最初に会ったときから違和感はあったけどな、ここ最近顕著だ」

言葉が耳を貫く、思考回路を貫く。
たしかに意識に入り込んでくるのに、その意味内容を理解するのに異常に時間をかけてしまう。

「なんでおめぇは、いつもそんなに苦しそうに笑う?」

全てを見透かすかのように真っ直ぐに入り込んでくる視線に耐えきれなくて、僕は遂に目線を外した。

苦しそうに笑う?僕が?

ありえない、そんなことはありえないよ。

全ては完璧だったはずだ。そして例えそうでなかったとしても、僕が無意識にそんな顔をするなんてありえないのだ。
あの人の罵倒する声が脳裏によみがえる。
かの人の泣きそうな声がこだまする。

ソフトウェアである僕の"ココロ"はしょせんプログラムでしかないのだと。

僕にココロはないのだと。


ココロを持たない僕に、かなしいもさみしいも、くるしいも、存在しないのだと。


「……苦しくなんて、ありませんよ」

渦巻く思考回路が、ダイアログさんに応えるべく言葉を紡いだ。
顔をあげ口元に笑みをともす。そう、全てはいつも通りであるべきだと脳裏で何かが囁いた。

「僕にはココロなど無いんですから」

僕の笑顔がダイアログさんの目にどう映ったのかは分からない。
ダイアログさんはただ哀しそうに首を振って、それきり何も言わなかった。


ウタにココロが宿るなら
 -きえないよどみ、むねがいたい-
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