"> 解明Polka 喫茶店な 忍者ブログ
2024.05│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

某歌ロイドにはまった人がちまちま書いているようです。ブログ名で好きCPがわかる罠

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

かなり前に書いて某方に贈らせていただいたものを今更ですが収納します。
カイメイSNSの日記で投下させていただきました、「カイメイ喫茶店」な現代パロです。
最近になって若干加筆修正しました。お久しぶりがこんなってもう…orz

では、現代パロだろうがばちこーいな方は、どうぞ続きから。




大通りから、少しそれた細い路地に、ひっそりと佇む喫茶店。
知らなければ、気づかずに通り過ぎてしまうようなそのお店は、ケーキと紅茶がとてもよくあっておいしいのだと、巷で噂のお店です。
青みがかった髪と目のマスターは、柔和で人当たりの良い好青年。パティシエを目指していた彼は、若いながらお菓子を作るのがとても上手です。
そんなマスターを支えるのは、紅茶のような髪と瞳の若い奥さん。彼女の淹れる紅茶は優しい香りがすると、お客さん達に大好評です。
この喫茶店ではお茶やケーキのみならず、この若い夫婦の初々しい惚気も、名物となっているのです。

今日も今日とて、店内には甘く品の良い香りが漂い、控えめにかけられたジャズが、その空気を震わせています。


「マスターの惚気だけでお腹いっぱいですよ」
「何です、メインのケーキはこれからだってのに」
「まだあるの!?」
「はい、ショートケーキ」
「ああ、そっちですか」

カウンターの席では、うっかりマスターに奥さんのことを聞いてしまったお客さんが、若干ぐったりとしながらケーキを受け取ります。
そんなお客さんの様子に、そっちって、他にどっちがあるんです、と、長らく惚気ていたマスターは、不思議そうに問いかけます。
それにはちらりと視線をかえすだけで、お客さんは溜め息をつきながら、無造作にフォークをケーキに伸ばします。けれど小さく欠片を切りだして、ひょいと口に放り込めば、その唇には笑みが浮かびます。
お客さんのその笑顔に、マスターも頬を緩めました。
が、その頬はすぐに引き攣ってしまいました。

「あ、な、た? 何の話をしていたのかしら……?」

マスターの背後では、いつの間に回り込んだのか、奥さんがにっこりと微笑んでいます。
微笑んではいますが、その背後に押し込められた静かな怒りには、恐らく初対面の人でも容易に気付くことができたでしょう。
マスターは、不自然なほどに機敏な動きで、くるりと奥さんの方へ振り返ります。
引き攣り笑いを浮かべるマスターの頬を、冷や汗がたらりと滑り落ちて行きました。

「あ、えーっと、ですね……」
「随分と楽しそうに話していたようだけど?」
「……めーちゃんは可愛いんだよっていう話をですね……」

可愛い、という単語に、奥さんの頬は一気に真っ赤に染まりました。
あ、う、と意味を持たない音を幾つか発した後、照れ隠しのように目を逸らしながらも強い口調で、奥さんはマスターに言います。

「もうっ、恥ずかしいからそういう話をするのは止めてって、いつも言ってるじゃないの」
「仕方ないよ、可愛いんだから」
「仕方ない、じゃないわよっ」
普段ならばこのあと、見ているだけでお腹がいっぱいになりそうな惚気の応酬が続きます。
けれど今日は何を思ったのか、カウンターの、少し離れた位置に座っていたお客さんが口を挟みました。

「そういや、お2人の馴初めの話って聞いたこと無いなあ」

その一言に、マスターと奥さんはびっくりしたように振り返ります。
同じように、店内にいたお客さん達も皆、驚いて振り返ります。
ただし彼らの場合は、そんなことを聞く猛者が現れるとは思わなかった、という意味での驚きです。
それには構わず、問いかけた彼は「どうなのよ」と更に問いを重ねます。
するとなぜか、マスターも奥さんも、若干気まずそうに視線を逸らしてしまいました。
この反応に、お客さん達は更に驚きます。と同時に、興味を抱かずにはいられません。
結局お客さん達に促されるままに、ご丁寧に店の奥の演奏用の小さなステージに立たされて。奥さんが、苦笑しながら話し始めました。

「私が初めてこの喫茶店のことを知ったのは、大学4年の、初夏の頃のことでした」

***

その当時の、このお店の評判って、ご存知の方はいらっしゃるのかしら。
ふふ、今では信じられないかもしれません。「ケーキは美味いが紅茶は不味い」って言われてたんですよ。ええ、本当に。
私は昔っから紅茶が大好きで、詳しいって程じゃないけど、それなりには判るって自負はあったんです。
それで、この噂を聞いてね、そんなに不味いって言うなら、飲んで確かめてやろうじゃないのって、変なやる気を出しちゃったんです。
今思えば、そこでわざわざお金を払って不味い紅茶を飲もうだなんて思わなかったら、こんな男に引っかかることもなかったのねって……。
やぁだかいとさん、何その顔。こんな良い男にって意味よ。……ほんと、ほんと。
……はいはい、その話は後でね。
それで、行ったんですよ、お店に。
まず最初にびっくりしたのは、そうね、マスターが思ったよりずっと若かったってことかしら。私と大して変わらなそうに見えたから。実際には、結構違ったのですけどね。
それから、出されたお茶にびっくり。それはもう、壊っ滅的に不味かったんです。
壊滅的で大袈裟じゃないんですよ、もう、信じられませんでした。
色もあんまりよくないし、渋いばっかりで、美味しさがこれっぽっちもない。
あんまりにも不味かったものだから、私、うっかりかいとさんのことを呼びとめて、色々問い詰めちゃったんです。
運がいいのか悪いのか、私の他には、お客さんなんて1人も居なかったものですから。
なんだったっけ、薬缶は何を使っているのだとか、茶葉はいつのだとか、大きさとか、知ってたことは片っぱしから聞いた覚えがあります。
かいとさんにはまさに黒歴史の頃よね。ええ、自覚があるならよろしい。
は、恥ずかしいのは私だってそうよ。初対面の年上の男性に、いきなり何してるんだか。
ええ、そう、それで初めて会ったんです。
一通り聞きだした後は、わざわざ知ってることを上から下までぜーんぶ話したわ。
無駄に正義感だけ強かったから、許せなかったんじゃないかしら。
……そうです。一目惚れってことはありませんよ、断じてありません。
こら、かいとさん、余計な事言わないで。大体私、そんなに興奮しても赤くなってもいなかったわよ。……多分。……も、もういいでしょ、続き行くわよっ。
こほん。
それから、何を思ったのか、かいとさんったらもっと教えてくれって、私に頼みこんできたんです。なんだかとっても、すっごい私のこと見つめてくるし。きらきらした目って、ああいうのを言うんだと思ったわ。
おかしな話なんですけどね、大の男がそういう目で、妙に一途に頼み込んでくるのに、全っ然違和感無かったんですよ。……褒め言葉よ。
それで、私の方も、言い出した手前引っ込みがつかなくなっちゃって。結局押されるままに引き受けちゃったんです。
本当に専門的な知識なんてもってなかったから、その足で本屋に行って、紅茶の本を買ったんです。それはもう必死に勉強しましたよ。やってやるんだ! ってね。

***

「それからは、週に1回のペースで、来てくれるようになったんだよね」

奥さんの言葉をついで、マスターが楽しそうに言いました。

「あの時は楽しかったなぁ……。ぼく、コーヒーの方が好きだったし、とにかくお菓子を作るのが楽しくて仕方ない頃だったから、正直お菓子が美味しければいいかなって思ってたんですよね」
「なあに、あなたそんな馬鹿なこと考えてたの?」
「そうそう。だから、めーちゃんのお説教は目から鱗だったんだよね。それでやっと気が付いたの、ぼくがお菓子にこだわるように、紅茶にこだわる人もいるんだって」

言いながら、マスターはにこにこと奥さんの顔を覗き込みます。もはやお客さん達の存在は、殆ど圏外になっているようです。
けれどそれは、彼が長々と惚気る時にはいつもそうなので、お客さん達も今更特に気にすることはありません。
奥さんだけがそれを気にして、恥ずかしそうにしていました。

語り手をマスターに変えて、話は続いていきます。

***

わざわざ本を買って勉強してくれてたなんて、その時のぼくはちっとも知らなくってね、すごい女の子だなあって思ったんです。
自己紹介をしたのは、2回目に会った時だったんですよ。初めて会った日から、3日後でした。約束の時間の、きっかり5分前に来てくれたんです。
約束をして会ったのは、あれが最初で最後だったかな。それからはなんとなく、めーちゃんの時間が空いていて、お客さんのいないときに。
来る日はね、何となくわかったんですよ。そわそわするっていうか、どうにも気持ちが浮き立って、ふわふわしている日。
……そうですね、ぼくの側は一目惚れだったかもしれません。わっと、めーちゃん叩かないで。いたい、いたいから。
そうそれで、その自己紹介の時、坂の上の大学の学生さんだっていうことも、初めて知って。めーちゃんって呼び名も、確かその時につけたんですよ。学生さんだから、可愛くと思って。
……まあ、当の本人は、こうして恥ずかしがってるわけですが。……でもめーちゃん、嫌じゃないんでしょ? うん、素直でよろしい。
ぼくは、初めて会った日から俄然やる気になってたから、それはもう色々と頑張ったんですよ。……いえ、こればっかりは恋愛方面にじゃなくてね、紅茶の話ですよ。
自分でもそこそこ良く淹れられるようになったって思えたのは、夏も終わりの頃だったかな。その時には、今もよく来てくださってる方も、ぽつぽついらっしゃるようになったんですよね。
本当にめーちゃんの舌を満足させられるだけの紅茶を淹れられたのは、もう秋もすっかり深まった頃でした。あの日の事だけは忘れませんよ。その時かけてた曲も、めーちゃんの使ったカップとソーサーも、その時のめーちゃんの満足げな笑顔も。
ほんっとに嬉しかったですよ、それはもうね。
……ん? 覚えてるに決まってるでしょ。後でもう一回出てくるけれど、ラベンダーの絵の入ったカップとソーサーのセットだよ。今はもう、家用に引っ込めてあるけどね。……そうそうあれあれ。
で、ぼくは無事めーちゃんの舌を満足させたわけなんですが、そうすると、めーちゃんが頻繁に来る理由もなくなっちゃったんですね。
何故かそれ以降、本当に1度も顔を見せてくれなかったから、もう嫌われたのかとも思ったりしましたよ。冬の間ずっとね。来てくれませんでしたから。
毎日毎日、暇な時には気が付いたらめーちゃんのラベンダーのカップ磨いて待ってましたよ。それはもうすごい喪失感。お客さんが来て下さるのはとても嬉しいし、ケーキと紅茶に満足していただければもっと嬉しい。
でも、それとは全然違う次元で、大切な何かが消えて、ぽっかり穴があいちゃった感じ。
それで、やっと気付いたんです。
ああ、ぼくはめーちゃん、……いや、めいこに、恋してたんだ、ってね。

***

「それで、私の方は……」
「なあそのラベンダーのカップって」

マスターの話がひと段落したとみて、言葉を継ごうとした奥さんと、お客さんの声が重なりました。
奥さんはびっくりしつつも、話をお客さんに譲ります。
お客さんは申し訳なさそうに手を振った後、妙に真剣な顔でマスターに向き直ります。

「なあそのラベンダーのカップって、今の話だと全然意識してなかったんだろ? それともホントは意識してた?」
「……。何で聞くんです、そんなこと」

問いに問いで返したマスターは、どうやらお客さんの言いたいことを、既に察しているようでした。それでも問い返さずにはいられないとばかりに、言葉を絞り出したのです。
そんなマスターに、お客さんは我が意を得たりと言わんばかりに、楽しそうに唇の端を釣り上げました。

「……いやさあ、だってラベンダーって、あれだろ『あなたを』……」
「わーーっ、そこまでっ。やっぱりね! でも偶然です! 残念でした!」
「何よ、何の話」

妙に慌てるマスターに、事情のわからない奥さんは、思わず口を挟みます。
お客さん達の方は、わかる人とわからない人で半々くらいでしたが、ひそひそと囁き合って、情報を共有し合っています。
それを見て、「ずるい」と、奥さんは頬を膨らませます。

「まあまあ。そこはほら、後で旦那さんからゆっくり聞きなよ。結構な愛の告白だからさ」
「ちょ、ちょっと!」
「いいからほら、続き続き」

焦るマスターもそっちのけで、お客さんは奥さんに話の続きを促します。
奥さんの方は少し釈然としないようでしたが、促されて口を開きます。
もちろん、マスターに「後でゆっくり、ね」と釘を刺してから、です。
マスターは、「恥ずかしいのはめーちゃんも一緒だよ」と答えるだけでした。

***

……私、さっき大学4年のって言いましたけれど、丁度その時期、卒論とかで忙しくなっちゃってたんです。冬の間は全然時間取れなくて。
まあ、時間はかかったけれど、ちゃんと進んだからまだ、よかったのですけれど。
本当は、時間が取れる時も、なかったわけじゃあなかったのですけどね。けど、その時にはもう、行かなくなってから大分経ってて、お店に入りづらかったんです。
まさか、ずっと待っててくれてるだなんて思ってもなみかったし。
何度か前まで来ることはあったけど、結局入れずじまいでした。
……そうよ、前までは来たの。し、仕方ないでしょ、私だって散々好き放題言わせてもらったけれど、改めて振り返ったら恥ずかしかったんだから。
仕方ないから、家で紅茶を入れたりもしたんですけれどね、どんなに私好みに淹れても、かいとさんに淹れてもらったのほど美味しく思えなかったんです。
そのうち、1人でぼうっとしてる時とか、さみしいなって思うようになって。
き、気が付いたらその、か、かいとさんのこと、考えてるように……なっ、て。
……な、なによニヤニヤしちゃって! 仕方ないじゃないの、恥ずかしいんだからっ!
そ、それでですね、自覚せざるを得なかったんです。
ああ、私はかいとさんのこと、好きになっちゃったんだ、って。
最初はもう、殆ど諦めてたんですよ、だってかいとさん、私より年上ですし、私が見かけてないだけで、もしかしたら彼女いるんじゃないかとか、お、思ったりして、結構悩んだんですから!
……でも。

***

「春が近くなって、全部が無事に終わって。私、実家に帰って手伝うことになってて。だから、お別れにと思って、お店に行ったんです」

お客さん達は皆、固唾をのんで話に耳を傾けています。
奥さんは落ち着かない様子で、指を組んでは解き、組んでは解きを繰り返しています。

「ぼくの方はと言えば、久しぶりにめーちゃんが来てくれたことで、もう舞い上がっちゃってましてね。だから、めーちゃんが妙に緊張してても全然気付かなかった。今となっては、それでよかったって言えるけど、もしも悪い方に転んでたらと思ったら、考えたくもないですね」
「私は、本当にこれで、自分の想いに決まりをつけるつもりで。告白はできる自信はなかったけれど、もう一度来るかもわからない街だったし、最後に笑顔を見られて、紅茶とケーキの味を覚えられたら、それでいいかなって思ってて」
「めーちゃんの注文は、ダージリンとショートケーキでした」

マスターは、照れたように笑って続けます。
が、奥さんの方は遂に耐え切れなくなったと言わんばかりに、両手で顔を覆ってしまいました。
髪の間から覗く耳まで、すっかり真っ赤に染めあげていました。

「それでぼくは少し考えて、チョコレートペンを取り出したんです。何て言うか、気取りすぎかなとも思ったんですけれど、いっぱいいっぱいだったもので。それで、クリームの上に、めいこへの想いをこめたんです」

まるで打ち合わせていた合の手のように、お客さんが訊ねます。

「何て?」
「……"I need you"」

途端、店内の席のあちらこちらから、歓声や囃し立てる声が上がりました。

***

カウンターから少し離れた、奥まったところにある2人掛けの小さな席で、めいこはじっと、運ばれてきたショートケーキを見つめます。
綺麗にならされた純白のクリームのキャンパスに、くっきりと描かれたチョコレートの文字。
その文字列の意味をゆっくりと理解して、めいこは目を見開きました。
思わず振り返った先では、淡く頬を染めたかいとが、答えを待つようにそっと首を傾げました。本当はその時、かいとは物凄く緊張した、ガチガチの笑顔を浮かべていたのですが、それを冷静に見てとれるほどの余裕は、めいこにはありませんでした。
その言葉が、間違いなく自分に宛てられたものだと知って、めいこはようやく現実を認識します。胸が高鳴る、という表現ではとても上品すぎて収まらないくらい、心臓が跳ねまわっていました。
お別れのつもりでした。もう、紅茶もケーキも、お店も、この、想い人であるマスターも、全部最後のつもりで、めいこは喫茶店に足を運んだのです。
どうしようもないくらいに、頬が熱くなりました。
紅茶に映り込むラベンダーも、カップに描かれたラベンダーも、じわりと滲んで、ただの薄紫色になりました。
感情が溢れすぎて、めいこは、その時のことをよく覚えていません。
ただ、気が付いたら必死に頷いていて、マスターの、かいとの温かい腕に、そっと包まれていたのでした。
その時のケーキほど、甘くて甘くないケーキはありませんでした。
どんなに甘いお菓子よりも、かいとの「好きだよ」というたった一言の方が、よっぽど甘かったのですから。

その背後、店内のあちらこちらで、小さくガッツポーズが決まっていたことに、2人はついに気付くことはありませんでした。



PR
←No.10No.88No.87No.86No.85No.84No.83No.82No.81No.80No.79
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
メールフォーム